腹腔鏡下手術について 腹腔鏡下手術は、おへそおよび下腹部に数カ所のごく小さな切開を加え、お腹に炭酸ガスを送り込んで膨らますことによって手術を行う方法です。きずが小さいため術後の痛みが少なく、回復がとても早いのが特徴です。ほとんどの患者さんが、翌日から食事をとり普通に歩行していただけます。 腹腔鏡による手術は、臓器を大きく拡大して観察しながら行う、とても精細で出血の少ない手術です。一方、腹腔鏡下手術は、腹腔鏡により映しだされる映像を見ながら行う手術のため、実施するには経験と高いスキルが必要です。内視鏡手術の技術が優れていて、安全な手術ができる医師を日本産科婦人科内視鏡学会が技術認定医として認定しており、当院には二名の技術認定医が在籍しています。また、病院自体も学会の認定施設に指定されています。 手術は安全につとめておりますが、残念ながら合併症はゼロではありません。手術に伴う主な合併症として臓器損傷(周囲の臓器がきずつく)、創部感染(きずの感染)、腸閉塞(術後腸ぜん動が低下して嘔吐したりお腹が膨満する)、深部静脈血栓症(血栓が生じて詰まる病気、いわゆるエコノミークラス症候群)などが生じることがあります。深部静脈血栓症は発症すると重篤化するため、予防が大事です。手術の際は弾性ストッキングを着用していただき、術中及び術後、間欠的に脚を圧迫する機器を使用します。血栓症予防薬を使うこともあります。また、腹腔鏡下手術に特有の術後症状として、患者さんは術後胃のあたりや肩の痛みなどを覚えることがありますが、これは炭酸ガスをによる影響であり、数日で消失しますので心配ありません。 手術の際は頭が骨盤より下がった状態(骨盤高位)になります。この状態が長く続くと、脚の圧迫によるコンパートメント症候群という病気が生じることがあります。コンパートメント症候群とは、足の筋肉が阻血により壊死などを起こすものです。当院ではブーツ型の脚挙上機器を使用し、数時間毎に骨盤高位を通常の体位に戻すなど予防に心がけています。 主な婦人科腹腔鏡下手術の術式 腹腔鏡下卵巣腫瘍摘出術・付属器切除術 卵巣にできたのう腫などを腹腔鏡手術で取り除きます。年齢や卵巣のう腫の種類により、のう腫だけを切除する場合と、付属器(卵巣および卵管)を摘出する場合とがあります。また、卵巣チョコレート嚢胞は子宮内膜症が卵巣にできるものですが、腹腔内が癒着していることが多いため難易度の高い手術となります。癒着が強い場合には手術時間が予定より1-2時間は長くなる可能性があります。 腹腔鏡下子宮筋腫核出術 子宮筋腫を腹腔鏡下に核出する手術です。ほとんどの場合は、バゾプレッシンという薬剤を希釈したものを子宮筋に注射し一時的な虚血状態にした上で切開します(そうしないと出血が多量になり、手術が困難になります)。筋腫が核出されたあとは合成吸収糸で縫合します。子宮筋腫の個数がかなり多い場合や、大きい場合は若干大きめの皮膚切開を加え、そこから筋腫を核出・回収する術式をとることもあります。子宮筋腫はかたいコブのようなものであり、筋腫を体外へ搬出する場合、皮膚切開を少し延長するか、電動モルセレーターという筋腫を細く切る機器を使うことがあります。術後は子宮を縫合した影響で数日間発熱することがあります。 腹腔鏡下子宮全摘出術 腹腔鏡下に子宮全摘の操作を行います。子宮周囲の組織を切断し、子宮に栄養を送っている動脈を切断し、腟に切開を加えて摘出します。膀胱や尿管など泌尿器系の臓器損傷のリスクがあります。当院では手術操作が完了した時点で、膀胱に内視鏡を挿入して損傷がないことを極力確認するようにしており、腹腔鏡による子宮全摘術を導入してから膀胱や尿管の損傷といった合併症を起こらないように、また万が一生じても術中に対応するよう心がけています。腟の奥を縫合しているため、性交渉や自転車に乗るなど負担になるようなことは避けてください。腟断端が開き、再度処置を要することがあります。主治医の指示に従って下さい。 入院の流れ 手術前日の午前中に入院します。手術室や病棟の看護師から手術・入院に関するガイダンスがあります。手術は麻酔科医による全身麻酔で行います。手術中はご家族の方に控室で待機していただきます。手術が終了したら執刀医より説明があります。手術の翌日朝から流動食が始まり、翌日には通常の食事となります。原則としては手術後4日目に退院となります。術後経過次第では入院が数日延長となる場合があります。社会復帰の時期は、手術の内容や個人の体力により差がありますので執刀医・担当医にお尋ねください。 子宮鏡下手術について 子宮の内腔に子宮内膜ポリープができたり、内腔に突出するように子宮筋腫ができると不正性器出血や、月経の量が異常に多くなるといった症状がみられます。また、着床障害による不妊症の原因ともなります。この子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫は、子宮鏡により切除します。手術の際に使用する子宮鏡は先端に電気メスがついていて、子宮内に水を灌流して視野を作りながら切除を行います。基本的には安全な手術ですが、まれな合併症として手術器具が子宮筋層を突き抜けること(穿孔)や感染、体液の電解質異常(水中毒)がおこることがあります。当院の子宮鏡下手術は、正常な組織と腫瘍との境目を意識して電気メスの通電を最小限にし、子宮内膜へのダメージを少なくする方法をとっています。お腹に切開を加えませんので術後の痛みはほとんどありません。 入院費用 入院費用の目安は以下の通りです。 術内容費用 腹腔鏡下異所性妊娠手術約18万円 腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術・付属器切除術約20~25万円 腹腔鏡下子宮筋腫核出術 約21~25万円子宮鏡下内膜ポリープ切除術約7~8万円 ※保険:3割負担で算出した場合上記の入院費用は概算です。その他個室差額料などが加算されます。